肝臓とは
肝臓は、哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・魚類等の脊椎動物に存在する臓器の一つです。
ヒトの場合、腹部の右上に位置して、ほぼ右肋骨の下に収まっています。脳に次いで重く、体重の約1/50を占め、成人で1,000~1,500gの重量があります。
肝臓は、栄養素など、さまざまな物質を化学的に作り変える働きをもち、体の中で最大の腺(せん:体内にある特定の物質を生成・貯蓄・分泌・排泄する器官)といわれています。また何千という酵素を使い、500以上の複雑な化学変化を起こし、まるで化学工場のようです。
肝臓のはたらき
【1】 胆汁を作る
胆汁は、脂肪を消化するために必要な液体で、黄緑色をしています。胆汁は、肝細胞から絶えまなく分泌されています。肝細胞では、脾臓から運ばれてきたビリルビンという黄色い色素を水に溶けやすいように変化させて胆汁の中に排出しています。
【2】 栄養素を貯え、変化させたりする
多くの食べ物はそのままではからだに吸収されません。栄養素としてからだが吸収できるように肝臓で変化させています。
例えば
- ぶどう糖をグリコーゲンに変えて貯えておき、必要な時にエネルギーとして使うために体内へ送り出します。
- 骨髄(こつずい)で必要な赤血球をつくるための葉酸(ようさん)や、ビタミンB12を貯えておき、必要な時に送り出します。
- アミノ酸から、血液に必要なアルブミン〈たんぱく素〉とフィブリノゲン〈線維素(せんいそ)〉を作り、血液の中に送り出します。
【3】 毒を中和する
体内に入った毒物を分解し、毒のないものに変えます。
例えば
- お酒のアルコールやたばこにふくまれるニコチンを中和しています。
- 人が運動をすると筋肉がぶどう糖を燃やし、乳酸を作り出します。
乳酸が血液中に溜(た)まると、からだは疲れを感じるといわれています。
肝臓では乳酸をグリコーゲンに変えています。
【4】 免疫細胞(めんえきさいぼう)が活躍している
- 肝臓のマクロファージ※といわれているクッパー細胞がからだに入ってきた異物を貪食(どんしょく)します。
- NK細胞がウイルスに感染した細胞や老化した細胞を処理します。
- 免疫をコントロールするT細胞が免疫細胞の指令役のはたらきをしています。
※マクロファージ:外からの異物である細菌(さいきん)やウイルスを食べてしまう細胞で、大食(たいしょく)細胞といわれています。
肝臓はとても強い臓器
肝臓は、少しくらい切り取られても再生することができる、ただ一つの臓器です。健康な肝臓は80%くらいを切り取ってしまっても機能するし、切った部分も再生されると言われます。ラットなどで行った実験では、3分の2を切り取られた肝臓が、1週間ほどで、元の大きさにもどっています。
脂肪肝に注意
前述したように、再生能力が高く、いくら暴飲暴食をしても、ストレスの多い仕事・生活の中でも、肝臓が痛むということはありません。
食べ過ぎによる肥満やアルコールの飲みすぎが原因の脂肪肝は生活習慣を改善することで治る肝臓病の中では比較的軽い病気です。
しかし、生活習慣を改善することなくそのままの生活を続けてしまうと、さらに肝機能が低下して、脂肪肝から肝炎、肝硬変、ついには肝臓がんを引き起こす可能性があるといわれています。
下の図は、その様子を解りやすく示しています。
- アルコール性脂肪肝であれば、禁酒を行うと6週間以内に症状は改善する。必要であれば食生活改善を行う。なお、肝硬変に至っていない、脂肪肝の状態の肝臓は可逆的なので、患者は生涯にわたる禁酒ではなく、脂肪肝が正常な肝臓に戻るまでの一時的な断酒で良い場合がある。肝臓が正常になったと診断された後には、脂肪肝を再発しない程度の適度な飲酒であれば許され得る。逆に、アルコール性脂肪肝であるのにもかかわらず飲酒してしまう対応を取った場合、アルコール性肝炎、さらには、アルコール性肝硬変へと進行してしまい、一時的な禁酒ではなく、生涯にわたる禁酒が求められる。なぜなら、肝硬変は不可逆的な肝臓の病変であり延命治療しかできないものの、飲酒は肝硬変の進行を促進するため、断酒することが、延命につながるからである。
- 肥満を伴う非アルコール性脂肪性肝炎であれば、ダイエット等の食生活改善が基本で、間食、夜食習慣は悪化させる。コロラド州立大学のある教授 が、実験動物で、摂取エネルギー量の20%分を砂糖で飼育したところ、その実験動物には、数ヶ月後には脂肪肝が生じて、インスリン抵抗性が生じた。砂糖をやめたところ、脂肪肝は速やかに消失し、インスリン抵抗性も消失したと報告している。
- 拒食症やタンパク質摂取を削減するダイエットが原因となっている場合、摂取カロリーの主体が炭水化物や糖質が過剰(低タンパク-高炭水化物)となっている事が多いが、タンパク質が主体の(高タンパク-低炭水化物)に食事に変えることで改善される。
血液検査
アラニンアミノ基転移酵素 (ALT)やアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の血液検査の結果だけでは脂肪肝の診断は行えない。理由はウイルス性肝炎が原因となる脂肪肝では ALT 、AST がときに、100 (IU/L)を越える高値になるのに対して、非アルコール性脂肪肝では ALT 、AST の上昇程度は小さい。また、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では肝細胞の線維化が進行して正常な肝細胞が少なくなると、ALTやASTの値はむしろ低下するためである。
B型肝炎ウイルス(HBs 抗原)、C型肝炎ウイルス(HVC 抗体)、各種自己抗体(自己免疫性肝炎)などの検査を行い原疾患の鑑別を行う。