「野菜をしっかり摂りましょう。」「キノコや海藻、豆類も食べるようにしましょう。」などとよく言われます。これらの食品は、ビタミン・ミネラルなどの重要な供給源ですが、もう一つ注目されているのは、「食物繊維」です。今回はその「食物繊維」に注目したいと思います。
第六の栄養素 食物繊維
食物繊維の歴史は古代ギリシャ時代にさかのぼります。その当時から,小麦ふすまは、便秘予防に良いとされ食べられていたようです。しかし栄養学では、「食べ物のカス」としてその効果は注目されていませんでした。
ところが1930年代頃、コーンフレークを開発したケロッグ博士により、小麦ふすまが「便秘に有効であること」が発見され、注目されるようになりました。その後オーストラリア科学者のヒップスレー医師が「Dietary Fiber:食物繊維」と命名しました。
従来の栄養学では、「栄養素は消化・吸収されるもの」として認識されていました。しかし栄養学の進歩とともに、1970年代頃より「消化されないが体内で良い働きをする栄養素」として認知が高まり、それらが健康と密接に関わっていることから第六の栄養素として注目されているのです。
食物繊維の摂取量と死亡リスク
しかしながら、食物繊維は、日本人の食糧摂取基準を満たさず摂取量が不足しがちな栄養素として挙げられます。これまでにも欧米では食物繊維の摂取量と死亡リスクの関連は調べられており、食物繊維摂取量が多いほど死亡リスクが低いという結果が報告されていました。
しかし、日本人ではどのような食品から食物繊維を摂取することが死亡リスクと関連するのかについては調べられていませんでした。そこでこの度、ある研究機関が日本人においても調査した結果、下の図1・図2のような結果が得られました。
図1 食物繊維摂取量と総死亡、がん死亡、循環器疾患死亡リスクとの関連
食物繊維摂取量が多いほど男女ともに総死亡リスクが低下し、死因別に調べると、男女ともに食物繊維摂取量が多いほど循環器疾患死亡のリスクが低下していました。がん死亡については男性では総食物繊維摂取量が多いほどがん死亡のリスクが低下していましたが、女性についてはその関連を認めませんでした。
図2 食物繊維の摂取源ごとの総死亡リスクとの関連
食物繊維の摂取源ごとに調べると、豆類、野菜類、果物類からの食物繊維は摂取量が多い人ほど総死亡リスクが低下していましたが、穀類からの食物繊維はその傾向が明らかでありませんでした。
以上、日本人においても、食物繊維の摂取量が多いほど死亡リスクが低くなるという結果がでました。ただ、穀類に関しては、欧米ほどの顕著な結果が出ていないのは、日本人が主食とする白米は、比較的食物繊維が少ないためと考えられます。
食物繊維の効果
食物繊維を十分に摂取することによって、
- 咀嚼回数が増す。
- 消化管運動が活発化する。
- 腸内残渣物の腸内通過時間の短縮が図れる。
- 糖質や脂質などの消化吸収を低下させる。
- 腸肝循環する胆汁酸を減少させる。
- 腸内細菌叢(ごう)を良好にさせる。
- 便容量を増大させる。
- 腸内圧および腹圧を低下させる。
- 腸内細菌によるビタミンの合成に役立つ
などの作用があることが分かり、これらの働きが健康の維持と疾病の予防に大きく関わっていることが分かってきました。中でも、動脈硬化症、虚血性心疾患、腸疾患(大腸がんなど)、脂質異常症、糖尿病、肥満、コレステロ-ル胆石症などの疾病は、食物繊維の不足が深く関わっていることが明らかになり、生活習慣病の予防や治療には、食物繊維を十分に摂取することが重要とされています。
食物繊維を多く含む食品
食物繊維には、「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」の2種類があり、それぞれ性質や体内でのはたらきが異なります。
「不溶性食物繊維」は、その名のとおり水に溶けない食物繊維です。野菜類や穀類、豆類などに多く含まれています。 水分を吸収してふくらみ、便の容積を増やして腸のぜん動運動を促す効果があるため、特に便通の促進に欠かせないとされています。 便が腸内にたまると悪玉菌が増え、有害物質を発生させることで、腸内環境が悪化します。しかし、不溶性食物繊維にはこれを予防する効果があるといえます。また、不溶性食物繊維を多く含む食品はよく噛まないと食べられないものが多いため、ゆっくりと時間をかけて食べることにつながり、血糖値が急激に上がるのを防いだり、満腹感を促したりする効果もあると考えられています。
一方、水溶性食物繊維は、水に溶けるとゲル状になり、食べ物を包んでしまうことで、ブドウ糖の吸収速度を緩やかにするため、血糖値の急激な上昇を抑える効果があるのが大きな特徴です。 食事の際に「炭水化物よりも野菜を先に食べることで血糖値の上昇を抑え、肥満の予防に役立つ」といわれるのはこのためです。 また、コレステロールの吸収を抑制して血中のコレステロール値を低下させたり、便をやわらかくして排出しやすくしたり、腸の中の善玉菌のエサになって腸内環境改善に貢献したりと、さまざまなはたらきをもっています。
実は健康維持のためには、2種類の食物繊維をバランスよく摂ることが大切です。 不溶性食物繊維:水溶性食物繊維=2:1の比率で摂るのがよいとされています。 特に不足しやすいといわれているのはこの水溶性食物繊維のほうで、どちらかといえば水溶性食物繊維を意識して献立を作るとよいでしょう。
一回の量でとる食物繊維量でみますと、下の表のようになります。
食物繊維を多く摂取するコツ
食物繊維は、野菜類、穀類、豆類、きのこ類、いも類に多く含まれています。特に納豆は水溶性と不溶性の食物繊維がバランスよく含まれている食品です。野菜は生のままでは、かさが多く量を摂ることができないので、煮たりゆでたりしてかさを減らしたほうが効率的に食物繊維を摂取できます。また、精製度の高い穀類より、未精製の全粒粉や玄米などには食物繊維が多く含まれているので、これらを主食として食事にとり入れるとよいでしょう。
できれば、一日三度の食事に副菜として、サラダ、お浸し、野菜の煮物、具だくさんの汁物を添えましょう。デザートとして、果物をとることも有効です。
また、主菜のお皿に付け合わせとして、これらの食材を使って添えればよいと思います。
今回のテーマは食物繊維でしたが、食物繊維の多い食材には、ビタミンやミネラルなどの大切な栄養素も含まれます。
- 今の食事に、もう一皿副菜を追加すること
- 白米を雑穀米に変える
- うどんをたまには、おそばにする
- プリンを海藻由来のゼリーにする
などなど、少し意識して工夫してみてください。
根菜カレー(食物繊維量1人当たり11.8g)
材料(2人分)
- れんこん 1/3本
- 大根 1.5cm
- 大根の葉 1本分(5cm)
- しいたけ 3コ
- たまねぎ 1/2コ
- トマト 1コ
- にんじん 1/3本
- 大豆(水煮) カップ1/2
- にんにく(みじん切り) 1かけ分
- オリーブ油 大さじ1
- 水 カップ2 1/2
- 固形チキンスープのもと(洋風) 1/2コ
- 大麦ごはん 200g(白米と大麦を4対1の割合で混ぜて炊いたもの)
- A ウスターソース 大さじ1 1/2
- A カレー粉 大さじ2 1/2
- A 塩 小さじ1/6
作り方
1、れんこん、大根は皮ごと、しいたけは石づきを取り、1.5cmほどの角切りにする。大根の葉は小口切りにする。
2、皮をむいたたまねぎ、皮ごとのトマト、にんじんはすりおろす。
3、オリーブ油を入れた鍋に、にんにく、れんこん、大根を入れて中火で炒める。オリーブ油が全体に回ったら、大豆、しいたけを加えてさらに中火で炒める。
4、2と水、スープのもとを加えてふたをし、中火で15分間煮る。
5、Aを加え、ふたをして中火で5分間煮る。大根の葉を加えて、サッと火を通す。器に大麦ごはんと一緒に盛る。